「コーヒーをめぐる冒険」は2012年公開のドイツ映画。
ヤン・オーレ・ゲルスター監督の長編デビュー作であり、ドイツアカデミー賞主要6部門を獲得した。
概要・あらすじ
ペーパードリップを発明したドイツでは、会社でもコーヒーを飲むための朝の休憩時間が設けられるというお国柄。
原題はThe Beatlesの「A Day in the Life」*1より。
I read the news today oh boy
About a lucky man who made the grade
恋人の部屋で目覚めたニコは、コーヒーを淹れるという彼女の言葉を断り、用事があると出掛けていく。
そこから始まるついてない一日。
半分は自分で撒いた種でもあるのだが、大学も中退し、やりたいことも見つからないまま、無気力に生きてきた。
才能がありながら仕事を選び、今は何者でもない自称役者の友人や、久し振りに再会する見違えた元同級生、今の人間の言葉が分からないと嘆く老人が語る水晶の夜。
人々との交流を通して人生を思う。
やっとありついたコーヒーを飲みながら、ニコの新しい一日が始まる。
コーヒーは象徴的だが、主人公のモラトリアムと、過去を清算し未来をつくる若者への期待が込められている。
「底力を見せてみろ」
モノクロで描く、ドイツの過去と現在の姿。
一見、おしゃれな雰囲気映画っぽいところもあるが、その言葉の意味を分かるドイツでは高い評価を受けた。
予告編動画
A Coffee in Berlin (Oh Boy)- Official Trailer | HD - YouTube
飲めないコーヒーと新しい一日
私にとってコーヒーは、1日の始まりの象徴です。起きて、
仕事に行く前に新聞を読みながら飲みます。ニコにとっても、 普通なら数ユーロ払って簡単に買えるはずだったのに、 それが出来なかったことによって大変な展開の1日になっていくの です。 (監督インタビューより)
ニコは行く先々でコーヒーを飲もうとしますが、ことごとくチャンスを逃します。
そのことで、始まるはずの一日の始まらない、奇妙な体験をすることになります。
中でも最後に出会う謎の老人、戦後60年間余所に行っていたという彼は、初めて自転車に乗れた子供の頃の出来事を語るのですが、その内容はただ事ではない描写を含むのです。
ドイツでの歴史的事件、水晶の夜*2。
今の人々の言葉がわからないという孤独な老人、かつては自信に満ち溢れていたけれど今は人生の目的を見失っている青年、束の間の邂逅。
老人の名前が判明するシーンが印象的でした。
この奇妙な一日を過ごして、朝を迎えたニコが口にするコーヒーの味
新しい一日が始まります。
若い世代は、この重すぎるテーマを背負って向き合わなければならないのと同時に、新しいドイツを具現化していかなければならないのです。
モノクロのベルリンの町と音楽
この作品は全編モノクロで撮られているのも特徴。
古い建物の多いベルリンの、時代の流れを封じ込めた町並み。
ジャズをメインとする音楽が合います。
Look At the Mess I've Made - Cherilyn Macneil - YouTube
この曲の Cherilyn Macneil は自身のバンドでの音楽はまた全然印象が違います。
Dear Reader - Out Out Out - YouTube
あとがき
この映画を観るきっかけは、TSUTAYAでたまたま村上春樹風のタイトルが目に止まったことでした。
予想していた内容とは違いましたが、なかなかの作品だと思います。
原題:Oh boy
監督:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:トム・シリング / マルク・ホーゼマン / フリデリーケ・ケンプター / ウルリッヒ・ネーテン / ミヒャエル・グヴィスデク