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「丹下左膳余話 百萬両の壺」時代劇版ツンデレのお手本

丹下左膳余話 百万両の壺

 

「丹下左膳余話 百萬両の壺」は山中貞雄監督による1935年公開の時代劇映画。

概要・あらすじ

「江戸は広いぞ。十年かかるか、二十年かかかるか、まるで敵討ちだ。」

享保の世、柳生対馬守は家に代々伝わるこけ猿の壷が百万両のありかを示したものだと知らされるが、壷はすでに弟源三郎の婿養子の引き出物として譲ってしまっていた。

手に入れれば海内無双の大金持ち。

秘密を知られずに取り戻したい柳生家家臣たち、妻に「こんな汚い茶壺」と言われ肩身の狭い源三郎、偶然壷を手に入れることになる矢場の居候人斬り左膳。

世知辛い江戸の町に転がり込んだ壷をめぐる人情劇。

 

当時人気絶頂だった丹下左膳の主役大河内傳次郎を使って大胆なパロディにしてしまった山中貞雄*1監督の代表作。

思い切った省略と場面転換による独特の間、ツンデレの極みとも言える左膳とお藤のやりとり、壺探しに奔走するかと思いきや矢場に入り浸る源三郎の飄々としたキャラクター、落語的な落ち。

  

監督:山中貞雄

原作:林不忘「丹下左膳 こけ猿の巻」

出演:大河内伝次郎 / 喜代三 / 沢村国太郎 / 深水藤子 / 花井蘭子 / 山本礼三郎 / 高勢実乗 / 鳥羽陽之助

こけ猿の壺をめぐる人々

こけ猿の壷は柳生家の家宝の茶壺で、名物帳筆頭、天下の名器として知られている一品。

片方の耳が欠けているためにその名が付きます。

冒頭で、藩主柳生対馬守は老人から家に代々伝わる壷の秘密を明かされますが、この部分は音声が聞き取りにくい点があるので書き出してみます。

 

「第一代の御城主様が、不時の軍用金にもと蓄えおかれましたる黄金が、百万両と申しまする。御城主様は、その百万両をある所に埋めておかれました。そうして埋めた場所を、詳しく絵図面に記して、その絵図面をこけ猿の壷に塗り込んでおかれました。」

 

原作の設定によると、時は享保、八代将軍吉宗の時代。

この頃は江戸中期で平和な時代、こけ猿の壷の本来の意味は忘れられ、藩主も家宝であるということしか知りません。

古い汚らしい茶壷とはいえ、家宝を他家に婿入りする弟に与えるあたり、なかなか太っ腹なところがあります。

吝嗇と評される人物とも思えませんね。

 

それを取り戻そうとする側用人の大之進も交渉が下手くそ。弟源三郎から壷を取り返す最大のチャンスを逃してしまうのです。

源三郎も秘密を知った当初は、張り切って江戸の町に繰り出しますが、次第にそれすらも家を抜け出す口実でしかなくなっていきます。

偶然壷を手に入れる左膳も、百万両にはさほど興味を示さない。

 

作中の人物たちは誰も本気で壷を手に入れようとはしていないともいえます。

百万両が本当に存在するのかどうか、そこは重要ではないのでしょう。

こけ猿の「虚仮」は実が無いという意味も持ちます。

源三郎の道場の看板も不知火道場。

むしろ、壷をめぐる市井の人々の悲喜こもごもがいきいきと描かれているのが魅力ですね。 

おすすめポイント

  1. 左膳とお藤の心理戦。いじめが原因で寺子屋へ行くのを渋る安吉を送っていくかどうかのやりとり。お互い自分では送らないと言いつつそわそわ。安吉の父、七兵衛を送った時との対比。
  2. 矢場へ入り浸る源三郎、屋敷から矢場への場面転換。
  3. 道場破り。源三郎と左膳の対決。原作では「伊賀の暴れん坊」源三郎と「人斬り」左膳、血の気の多い二人の勝負の行方は。

どの辺がパロディなのか知りたい方にはおすすめ。

 

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