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「映画 立川談志」ある落語家のドキュメンタリー

映画 立川談志 ディレクターズ・カット

芸の神はこんな処か、もう少し楽しませてくれてもいいのに

 

2012年、立川談志の一周忌に合わせて作られた企画映画である。ドキュメンタリータッチで、著書で語られた言葉をいくつか採り上げつつ、高座の映像を紹介している。

落語家としての立川談志像に迫るといった感じではなく、ファン向けのイベント企画といったところなのだろうか。

もっとがっつりなドキュメンタリーを期待していたが、予想とは違った。

まさにスクリーンで観る高座だ。

立川談志の落語を聞いたことのない人への入門編としてもいいかもしれない。

 

1965年、真打になったばかりの20代の頃に書いた「現代落語論」と、1981年の続編で現代と大衆と古典をつなぎ合わせる重要性を説き、「落語は、人間の業を肯定する」との言葉を示した。

「客を笑わせるのは手段であって、目的は別にある」

欲望、好奇心、おそれ、といった人間の本質、人間の業を描くこと。

 

ここで紹介されている演目は、「黄金餅」、「薬缶」、「芝浜」の3つ。

特に芝浜は1時間ほどの長さがあるが、そっくりそのまま収録*1されている。

余計な解説を聞くよりも、実際に落語を聞いて感じてみろといったところか。

ナレーションが、言葉で説明するのは難しいと言ってしまっているのだ。

 

芝浜は代表作でもあるが、談志本人は嫌いだとも言っている。

人間の業を描くというには、話がうまくいきすぎているからなのか。

人情噺は好きではないらしい。

それでも、ずっとこだわってきた。

60年に渡る落語人生の中で、葛藤の中で進化してきた芝浜を聞けるということが、この映画の価値ではないかと思う。


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落語とは何だ。

寄席という、独特の空間で、昔からある作品を江戸っ子の了見で演る。己のギャグ、自我、半社会的なこと、それを江戸の風のなかで演じる。

非常に抽象的だが、そうとしか言えまい。

「江戸」という “風” “匂い” の中で演じるということだ。

「最後の落語論」より

 

 

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*1:(2006年12月2日、三鷹市公会堂でのもの)