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「過去のない男」人生は前にしか進まない

アキ・カウリスマキ監督作品「過去のない男」

 

「過去のない男」は、アキ・カウリスマキ監督による2002年公開のフィンランド映画。

怪我で記憶を失った男が、見知らぬ町で新しい生き方を見つけていく。

あらすじ

ヘルシンキのとある駅に降り立った男がベンチでうとうとしていると、三人組の男たちに突然襲われ、大怪我をしてしまう。

命は取り留めたものの、病院から抜け出し道端で倒れているところを通りがかった少年たちに発見される。

男には過去の記憶がなかった。

言葉は話せるが名前も社会保障番号もわからない状況で、仕事も銀行口座も手に入れるのが困難だったが、周囲の親切な人々の助けもあり、徐々に環境に馴染んでいく。

予告編動画 

The Man Without a Past Trailer - YouTube

貧しくとも親切な人々

行き先のない男を助けたのは、町外れのコンテナに住む貧しい家族だった。

酒好きの夫、しっかりものの妻、二人の子供たち。

日々の暮らしにも困るようなぎりぎりの生活に見える彼らも、助けが必要な相手には迷わず手を差し伸べる。

 

カウリスマキ監督の登場人物には、僕の知る限り根っからの悪人は出て来ない。

かつてインタビューで、小津安二郎監督の尊敬する点が、「人生の根源を描くとき、一度として殺人や暴力や銃を使わなかったことです」と答えていた監督の優しさが伺える部分だと思う。

日本の音楽も使用されている

カウリスマキ作品の魅力の一つは使われている音楽。

本作では日本の音楽もサントラで使用された。

一つはクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」、もう一つはメンバーのソロプロジェクト"小野瀬雅生ショウ"の「Motto Wasabi」。

  

Masao Onose - Motto Wasabi - YouTube

 

こちらは作中に出てくる救世軍のバンドが演奏する曲。 

この感じ好きだな。

 

Marko Haavisto & Poutahaukat - Paha Vaanii - YouTube

パルムドッグ賞の演技にも注目

住居のない男に空きコンテナを提供してくれるのが警備員の男。

字幕だと警備員、Wikiだと警備の役人となっている。

ボロボロの住む人のいなくなったコンテナは、とても快適とは言えない物件だったが、警備員は週ごとに家賃を取り立てる。

払えそうにないと答えた男を脅すために猛犬をけしかけるのだが、この犬は監督の愛犬タハティだ。

 

予告編にもちらっと出てくるが、役名でハンニバルという勇ましい名前が付けられている。

この犬の演技にも注目。

カンヌ国際映画祭で見事パルムドッグ賞を獲得した。

ちなみに、「ル・アーヴルの靴みがき」で登場した犬ライカの祖母にあたるそう。

人生をやりなおすために必要なもの

この作品は過去のない男が失った記憶を取り戻す過程を描いているわけではない。

以前はどこで何をしていて、どういう人間だったのか。

それよりも、全てを失って何もないところから、これからをどう生きていくのかが大事。

記憶が戻っても戻らなくても、人生は前にしか進まない。

必ずしもいいことばかりではないだろうけれども、勇気をもらえるメッセージではないか。

 

エンディングの曲。 

Marko Haavisto & Poutahaukat - Stay - YouTube

Don't go away, don't go away,

What's the use to go away and 

to start all over again

We'll be all right, we'll be all right,

We'll end the storm and make it shine

and everything will be fine. 

(「Stay」- Marko Haavisto & Poutahaukat)

あとがき

DVDの新装版は2本立てになってお得。

もう一つの作品は2006年公開の「街のあかり」。

1996年の「浮き雲」と合わせて“敗者三部作”とも呼ばれている。(なんていわれようだ)

 

原題:Mies vailla menneisyyttä

監督:アキ・カウリスマキ

出演:マルック・ペルトラ / カティ・オウティネン / アンニッキ・タハティ 

 

いいなCM earth music & ecology 宮崎あおい 「カフェにて」篇 - YouTube

 

カウリスマキ風のCM。

調味料の大量投入は本作にも登場する。

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