午前3時の太陽

おすすめ漫画の紹介と注目の新刊コミックのレビューブログ

「トト・ザ・ヒーロー」僕は君になりたかった

映画「トト・ザ・ヒーロー」(字幕版)

 

「トト・ザ・ヒーロー」はジャコ・ヴァン・ドルマル監督による1991年公開の映画。

 

あらすじ

「君を殺すぞ、アルフレッド」

 

老人ホームで余生を送るトマには、幼い頃から抱えてきたある思いがあった。

産院の火事によって取り違えられた赤ん坊。

自分が手に入れるはずだった人生を、家族を、愛する人を、僕は君から取り戻さなくてはならない。

 

振り返れば何も起こらない人生だった。

何一つ。

 

子供の頃、トマは両親と姉と弟と暮らしていた。

裕福ではないが、仲の良い家族で幸せだった。

だがそれも、通りの向かいに住むカント家と、同じ日に生まれた一人息子のアルフレッドによって次第に変化を見せ始める。

 

予告編動画

Toto the hero (1991) Trailer - YouTube

 

幸せの歌

家族の幸せの象徴として作中で出てくる楽しげな曲。

これはシャルル・トレネ*1(Charles Trenet)作曲のシャンソン、「ブン(Boum)」である。

元々は1938年公開の映画「輝ける道」の中で本人が歌っていたもの。 

 

Charles Trenet - Boum - YouTube

 

飛行機のパイロットであった父がピアノを弾き、姉のアリスがトランペットを吹く。

トマにとって最も幸福な時期の記憶。

 

昨日からこの世はすっかり別世界

リラが花開き太陽は海を照らす

ブン!夜明けの太陽にブン!

心がはずめば世界はバラ色 

 

ブンとは心臓の鼓動のことらしい。

世界の見え方は自分の心しだい。 

まさに本作のテーマだ。

タイトルバックで星空が映るのもここから来ているんじゃないかな。

 

夢と現実と

トマは名探偵になった姿を想像する。

トト・ザ・ヒーローだ。

テレビの中の主人公のように、悪者たちから大事な人を助け出す。

相手はいつもアルフレッドだった。

「チキンスープ」とからかわれていた子供時代から、「あのトマが名探偵に」と驚きの言葉をもって迎えられるのだ。

 

トマは成長し測量学を学んだ。

現実は思っていたのとは違った。

夢に描いていた姿ではなく、追いかけていたものは手元からすり抜けていった。

ではその人生は幸せではなかったのか。

 

弟はダウン症で、子供の頃からトマと一緒にからかわれていたが、いつも楽しそうだった。

世界をありのままに見ていた。

愛する人の面影を追うトマに「似てないよ」と言い、現在を「昨日と同じ時間の今だ」と言う。

トマが気づくにはもう少し時間が必要だった。

 

老境のトマが見たものは、同じように年老いたアルフレッドと恋人だったエヴリーヌの姿。

長い間記憶から消えなかった二人もそれぞれの人生を生きてきた。

そこにはわだかまりなどなかった。

帰路につこうとするトマにかつての父と姉のあの曲が浮かぶ。

 

あとがき

本作はジャコ・ヴァン・ドルマル監督のデビュー作。

この監督も寡作だが、もっと他の作品も観たいと思わせられた。

ヒーローは謙虚さという意味も含むらしい。

トマにはいつでも自分を必要としてくれる人がいた。

見え方の違い、気づくのが少し遅かっただけだったのだ。

トトにアルフレッドの名前は「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出すが、こちらも優しい名作であった。

本作は長らくDVD化されていなかったが2012年に発売、プライムビデオでも観れる。

 

Charles Trenet - La route enchantée - YouTube

 

シャルル・トレネの別の曲。

「ブン」が登場する映画のタイトル曲だ。

 

原題:TOTO LE HEROS

監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル

出演:ミシェル・ブーケ / ジョー・ドゥ・バケール / トマ・ゴデ / サンドリーヌ・ブランク /  ミレーユ・ペリエ / クラウス・シンドラー / パスカル・デュケンヌ

関連記事