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「妻への家路」文革に翻弄された家族の絆と再生への道

チャン・イーモウ監督映画「妻への家路」

 

「妻への家路」はチャン・イーモウ監督による2014年公開の映画。

文化大革命後の中国で、離れ離れになった家族が再び寄り添い生きていく過程を描く。

 

あらすじ

1970年代、中国。

教師の婉玉(婉瑜:ワンイー)と舞踊学校に通う娘の丹丹(タンタン)は、党の執務室に呼び出される。

夫である焉識(イエンシー)は元教授で、文化大革命により長い間帰っていなかった。

その焉識が移動中に逃亡した。

見かけたら報告するようにとの言葉に、丹丹は了承するが、婉玉は動揺する。

 

娘は幼い頃に連れ去られた父のことを覚えていない。

革命模範バレエの演目「紅色娘子軍」の主役、呉清華に決まりそうな時期でもある。

党の考え方に疑問の余地もなく、父は生活を脅かす存在となった。

 

一路、家族の元へ向かう焉識は、監視の目を避け、屋根伝いに家の前に立つ。

 

予告編動画

Coming Home trailer (director Zhang Yimou, starring Gong Li, Chen Daoming) - YouTube

 

娘の密告 

雨の中帰宅した丹丹は、戸口の前で父と名乗る男と出会う。

通りには党員の見張りがいる。

懐かしさよりも危機感が募る。

 

両親の再会を邪魔したくない気持ちと、見つかれば母まで失う恐怖とで揺れる。

このあたりが冒頭の見所だと思う。

戸口に立った夫を気配で察する妻、鍵が開くのを待つ夫と開けることができない妻。

この日を10年以上待ったはずなのに、この時代ではそれができない。

 

焉識は丹丹に翌日駅で待つことを伝え、婉玉に手紙を書いた。

たまらず表へ出た婉玉は、監視の男と娘が話している場面を目撃する。

家族の崩壊の瞬間。

娘の行動は当時としては義務であり、責められるものではないが、母にとっては裏切りであった。

 

映画「妻への家路」映画より、写真を指差す母

 

文化大革命の終焉とその後の家族

本作の主な舞台は文革終了後の1970年代末。

文化大革命は1966年から1976年まで行われ、多くの芸術家や知識人が弾圧された。 

焉識もその一人であったが、連行されたのは丹丹が3歳の時。

文革の前段階ともいえる反右派闘争での拘束、解放まで20年の月日を費やした。

逃亡からの再逮捕から数年が経っていた。

 

久し振りの我が家、家族との生活を夢見ていた焉識に突き付けられた現実。

婉玉は記憶障害で一人で暮らし、丹丹はバレエをやめ紡績工場の寮に入っていた。

 

婉玉の記憶は過去の時点に留まっている。

新しい記憶は長く保たない。

焉識を忘れたわけではないが、時間が経ちすぎて容貌の変わった夫を認識できないでいる。

生活に支障をきたすレベルでないとは言えない。

それでも娘の行為を許せず拒絶したままだ。

 

これは家族の再生の物語。

原題の「帰来」はおそらくその意味を前提に付けられている。

焉識は不在であった20年の間の空白を埋めるため、丹丹は父と呼んだことのない焉識との時間を共有するため、婉玉は娘を許し焉識を夫と認識するため。

 

婉玉は帰らない夫を待ち続ける。

毎月5日になると駅に向かい、乗客の中に夫がいることを願う。

隣には焉識と丹丹が寄り添う。

取り戻せない過去の代わりに新しくできた家族の絆。

切ないけれど、温かい時間がそこにはあった。

あとがき

焉識役のチェン・ダオミンは監督いわく中国最高の俳優だとのこと。

実際コン・リーとのコンビはまさに最高レベルのものだった。

日本で観ることのできる作品が少ないのが残念だが、他作品も追ってみたい。

コン・リー出演作は「さらば、わが愛/覇王別姫」がおすすめ。

 

原題:歸来(帰来)

監督:チャン・イーモウ

原作:ゲリン・ヤン

出演:コン・リー / チェン・ダオミン / チャン・ホエウェン 

 

原作の小説。若き日の焉識、投獄後の日々、逃亡の過程、映画では省略された部分を含む長編。

映画の印象が変わるかもしれない。 

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