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映画「カラスの飼育」思い通りにはいかなくても

映画「カラスの飼育」パッケージ

「カラスの飼育」はカルロス・サウラ監督による1976年公開の映画。

ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」のアナ・トレントに影響を受け、彼女のために作られた作品である。

「ミツバチのささやき」では妖精の存在を疑わない少女であったアナのイニシエーションが描かれていたが、本作ではさらに進めて子供の残酷さを表に出している。

あらすじ

マドリードの中心部にある古い家。そこには11歳のイレネ、9歳のアナ、5歳のマイテの3姉妹と、職業軍人の父、半身不随の祖母、そして昔からの忠実な召使ロザが暮らしている。ピアニストだったアナたちの母は数年前に亡くなっていた。子供の養育の為にピアニストとしての活動を断念した母の晩年は、父にかえりみられず不幸であった。その事をアナは深く胸に刻みつけている。(allcinemaより)

まだ遅い時間、父の寝室から漏れてくる声。

一人ではない。

この日、父が死んだ。

死因は不明だが、顔を見られないように抜け出す女と、部屋にあったコップを洗うアナの姿があった。

予告編動画

Cría cuervos (1975) - trailer - YouTube

曲は、作中アナがかけるレコードと同じ、Jeanetteの「Porque Te Vas」。

子供の残酷さ

死にたいの? 手伝ってあげようか

本作の作られた動機は、アナ・トレント主演で映画を撮ってみたいという点であり、観る側としても期待するのはその一点に尽きるといってもいいのではないだろうか。

カルロス・サウラ監督が選んだのは、身近な人間の死を望み、明確な意志を持って実行に移すショッキングな内容。

妖精の代わりに見えるのは、死んだはずの母親ともうひとりの自分。

父の死後に屋敷にやってきたのは、後見人としての叔母と祖母だった。

 

アナの目には自分たちの生活を脅かす人間に見えただろうか。

身体の自由が効かず、写真を眺めて昔を懐かしむことしかできない祖母。

マナーにうるさく、食事の仕方に口を出してくる叔母。 

姉妹でのかくれんぼのシーンがあるが、見つかったら死ぬ真似をするルールがあるようだ。

その時と同じようなカジュアルさで「死んで」と口にする。

 

カラスの飼育とはスペインの諺で、日本で言う飼い犬に手を噛まれる的な表現らしい。

別の言い方をすると、期待通りに行かないということ。

それは母から手に入れた毒(とアナは思っている)で、叔母を亡き者にしようとしたアナにとっても、両親を失った子供たちを責任をもって教育しようとしている叔母にとっての現状。

でもこの叔母はアナがこれまで接してきた大人の中で一番まともかもしれない。

距離感をつかめていないだけで、やさしい人物である。

全体的に暗い内容の作品の中で唯一の希望なのかな。

 

Mompou plays Mompou Cancion y Danza No. 6 - YouTube

眠れない夜に、母が弾いてくれたピアノの曲は、スペインの作曲家フェデリコ・モンポウの「歌と踊り」(Cancion y Danza)から。

 

原題:Cría Cuervos

監督:カルロス・サウラ

出演:アナ・トレント / ジェラルディン・チャップリン / コンチ・ペレス / メイト・サンチェス / モニカ・ランドール / フロリンダ・チコ / ジョセフィナ・ディアス

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