「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」はトム・ムーア監督による2014年公開のアニメ映画。(日本では2016年)
アイルランドの神話に登場する、アザラシの妖精セルキーを母に持つ子供たちの、歌をめぐる冒険。
あらすじ
小さな海辺の町、貝の笛、伝説の巨人、フクロウ魔女───
アザラシの妖精が歌う、美しいうた。
アイルランド発、心に響く、珠玉の家族の物語。
丘の上の灯台の家に、もうすぐ新しい赤ん坊が生まれようとしていた。
母のブロナーは古い伝説や歌に詳しく、幼いベンによく聞かせてくれる。
たくましくやさしい父コナーと、愛犬クーとの幸せな日々。
「早く赤ちゃんに会いたいな」
「あなたは世界一のお兄ちゃんになるわ」
ある日、赤ん坊が生まれそうになったブロナーは、一人海の中に消えてしまう。
後を追ったコナーは赤ん坊を発見して連れ帰るが、ブロナーが家に戻ることはなかった。
数年後、シアーシャと名付けられた娘は元気に育ったが、声を出すことが出来ずにいた。
兄になったベンは、そんな妹に複雑な思いを抱えている。
大好きな母がいなくなったのはシアーシャのせい。
ことあるごとに、妹にいじわるをしてしまうのだった。
そして、シアーシャが6歳の誕生日を迎えた日の夜、彼女の身に不思議な出来事が起こる。
予告編動画
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた予告編 - YouTube
海のうたと妖精セルキー
ベンが子供の頃、母が聞かせてくれた物語の数々。
石になった巨人マクリル、フクロウの魔女マカ、アザラシの妖精セルキー*1。
特にセルキーは重要な存在である。
海ではアザラシ、陸では皮を脱いで人の姿になる妖精。
皮を隠されて人間の妻になるが、やがて皮を見つけて海に戻るという日本の羽衣伝説のような物語が伝えられているようだ。
本作ではこの皮はコートと呼ばれている。
他の妖精たちが家に帰れるように導く”海のうた”を歌うのもセルキーの役割であり、母ブロナーがベンに教えるのもこの”海のうた”だった。
Song of the Sea - Lisa Hannigan
音楽は、エンディング直前に使われていたKiLAの「Katy's Tune」という曲が気になっている。
Katy's Tune - KiLA
ハロウィンの一日
子供たちを心配して街に引き取った祖母の家から、海辺の家に帰ろうとしたベンが抜け出すところから冒険が始まっていく。
この日はハロウィン。ケルト暦ではサウィンと呼ばれ、一年で最も重要な日とされてきた。
現実の世界と、異なる世界が交わる日。
人でないものが現れても不思議のない一日。
兄妹がバスの運転手に妖精を見たんだと言った時に、「後ろにたくさん乗ってるよ」と返されたのもこのためだった。
フクロウの魔女マカにさらわれた妹を助けるため、ベンがお兄ちゃんらしくなっていく姿が微笑ましい。
二つの世界をつなぐ物語
手書きの2Dアニメーションには、絵本のような永遠性があるように感じます。ロボットや宇宙船といったものはCGとの相性がいいかもしれませんが、時が経っても色あせない神話や伝承には、永遠性をもつ2Dのほうが馴染む気がするのです。(トム・ムーア監督インタビューより)
本作をつくろうとしたきっかけは、 アイルランドの海岸で、アザラシが殺されているのを知ったことだという。
漁獲量が減ったとはいえ、昔から神聖とされてきたアザラシに手を出すのは、神話や伝承が忘れられているのではないかと。
現代と、古い文化をつなぐ作品でもある。
円や渦巻きが多く使われているのもその一環で、ピクト語を意識したデザイン。
シアーシャが初めて海に入り、祖母に呼ばれて浜辺に戻るシーンが好きだな。
打ち寄せる波の模様がきれいだった。
あとがき
監督は「ブレンダンとケルズの秘密」(2009)でもアカデミー賞にノミネートされ、この「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」が2作目とのこと。
前作も日本で公開(配信)してほしいところだ。
これは何度でも観たい映画。
原題:Song of the Sea
監督:トム・ムーア
出演:デビッド・ロウル / ブレンダン・グリーソン / フィオヌラ・フラナガン / リサ・ハニガ / ルーシー・オコンネル / ジョン・ケニー