「片恋の日記少女」は中村明日美子による漫画作品。
作者の初の少女漫画短編集である。
初版は2008年、その後2016年に電子書籍化された。
「父と息子とブリ大根」、「待ち人キタリ」、「娘の年ごろの娘」、「とりかへばやで出会いましょう」、「原色メガネ男子標本」、「片恋の日記少女」、「みたいなメモリー」の7編からなる。
探しても見つけ難いのに、恋とは突然訪れるのです―― 表題作『片恋の日記少女』をはじめ、父と元・息子、父と娘の友達、姉と偽り男と会う弟、など、親子兄弟ジェンダーが入り混じったヒトとヒトとの多彩な関係をおかしく切なく描いた作品集。
(「片恋の日記少女 (花とゆめコミックススペシャル)」より)
とりかへばやで出会いましょう
「とりかへばやで出会いましょう」は、女装男子が姉の身代わりにデートへ向かう話。
年の離れた姉のさなえが、出会い系サイトで知り合った相手と待ち合わせることになった。
出かける準備を手伝わされる中学生の弟スグルだったが、顔もろくに知らない相手と会うことが気に入らない。
隙を見て、姉の服で待ち合わせ場所に向かうのだった。
相手の男を幻滅させようと、デートコースはB級アクション映画、ゲームセンター、ボーリング、焼肉と色気のないものを選んでいく。
実は相手も乗り気ではないデートだったのだが、二人は予想に反して意気投合してしまい、お互いに自分が楽しんでいることに気づいてしまうのだ。
二人の恋?の行方が気になる作品。
憎まれ口を叩きつつも女装してまで姉を守ろうとするシスコンな弟。
姉は姉で守られるタイプというわけではなく、いろいろ強そうなのだが、スグルにとっては母親代わりなところもあるのかも。
扉絵では女装前と後の姿が見られる。
似合いすぎて将来が心配である。
原色メガネ男子標本
保健の先生の役得。
それはたとえば、いかにも秀才なメガネ男子に分かりませんと言わせる快感。
これは作者の趣味であるところのメガネ男子を愛でる回。
恥じらいを浮かべる表情も甘美である。
場合によっては「不潔です」の言葉もご褒美になりそうであるが、これ性別逆なら完全にセクハラだな。
片恋の日記少女
「恋をしてしまった」
私立高校の教師をしていた父の遺品の中から見つけた言葉。
毎朝同じ電車に乗るらしいその相手が気になるたかしは、父の乗っていた車両を突き止める。
小田急小田原線新宿行きのとある車両。
手がかりは“みどりの花のピンどめ” 。
朝のラッシュ時にもかかわらず、意外にも早く見つかったその相手は、父がながめるだけで満足していたのも理解できる、かわいらしい女の子だった。
なぜか成り行きでストーカー撃退の協力をすることになるのだった。
一見、清楚な印象を受けるのは校則の厳しさからくるもので、彼女自身はおとなしい性格ではない。
加えて美少女であることで、外見で判断されることがどうしても多くなる。
演劇部を選んだのもその反動なのかもしれない。
彼女は中身で判断してくれる相手を望んでいた。
そのためには見ているだけではダメで。
たかしはそこに踏み込めるのか、というところ。
あとがき
「曲がり角のボクら」や「鉄道少女漫画」へ続くエグみのない作品集。
この路線ももっと描いて欲しいな。