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「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】)創作への情熱と楽しさが詰まった幸せな作品

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】) (MFC ジーンピクシブシリーズ)

「映画大好きポンポさん」は杉谷庄吾【人間プラモ】による漫画作品。

pixivで発表されたweb漫画であったが、SNSで評判を呼び今回の書籍化となった。

帯によると、アニメ化も進行中とのこと。

ポンポさんは敏腕映画プロデューサー。映画の都ニャリウッドで日夜映画製作に明け暮れていた。ある日アシスタントの“映画の虫”ジーンはポンポさんから突然「この脚本は君に撮ってもらうから」と監督に指名され!?

(「映画大好きポンポさん (MFC ジーンピクシブシリーズ)」より) 

ポンポさんは映画プロデューサー

ニャリウッドにある映画会社、ペーターゼンフィルムに所属する若きプロデューサーのポンポさん。

彼女は伝説の映画人、J・D・ペーターゼンを祖父に持ち、映画作りに必要な才能を全て持ち合わせている銀幕の申し子であった。  

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】より、ポンポさんが来ったぞー
(「映画大好きポンポさん」より)

本名はジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット。

今日も新作映画にかかりきりのポンポさんは、事務所に泊まりがけで作業をしている。

コネも資金も才能も持ち合わせている彼女ではあるが、B級おバカ映画を作っている時が一番生き生きしているようだ。

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】より、ポンポさんはB級映画好き
(「映画大好きポンポさん」より)

どんなくだらない内容でも、彼女にかかればちゃんと面白い作品に仕上がってくる。

「泣かせ映画で感動させるより、おバカ映画で感動させる方がかっこいいでしょ?」とは彼女の談。

女優が魅力的で、適度な長さで、気軽に楽しめる娯楽映画を好むのは幼少時代の経験によるものらしい。

多忙な両親の代わりに祖父のもとで育った彼女は、日々一緒に映画を鑑賞し、その間じっと座っていることを求められたという。

そのため、長尺の映画は苦手としている。

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】より、ポンポさんの映画論
(「映画大好きポンポさん」より)

「2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくないわ。

製作者はシーンとセリフをしっかり取捨選択して出来る限り簡潔に作品を通して伝えたいメッセージを表現すべきよ。」

ポンポさんのこの部分の考え方には共感できる。

映画は90分くらいで、長くても2時間以内にすっきり収めて欲しい。 

ここでの製作アシスタント、ジーンの反応もポイントである。

彼は映画だけを人生の楽しみとして生きていた。

学生時代も周囲に馴染めず家で映画ばかりを観る日々を送っていたが、将来は映画監督を目指しペーターゼンフィルムに飛び込んだのだ。

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】より、ジーンが監督に抜擢される
(「映画大好きポンポさん」より)

本作は彼や新人女優のナタリーがポンポさんに見出され、映画の道を歩み始める物語でもある。 

「1分でも多く映画を観ていたいから上映時間が長いと嬉しいです」と言っていた映画バカのジーンが、予告編を任されたことをきっかけに編集の魅力にはまっていく。

鑑賞中も仕事中も常にメモを取り続ける几帳面な彼には、地道な作業は向いているのかもしれない。

ただこの時点では彼にとって映画は自分が楽しむためのものであった。

やがてポンポさんの脚本による新作の監督へと抜擢された彼がどう変わっていくのかが見所。

彼はポンポさんが一番撮りたいと思っていたシーンを見抜く目を持っている。

あとは自信を持つ事や、作品を通して何を伝えたいか、誰に伝えたいかを意識出来るかどうかが課題なのだが。

「映画大好きポンポさん」(杉谷庄吾【人間プラモ】より、リリーを演じるナタリー
(「映画大好きポンポさん」より)

女優を魅力的に撮ることは成功したようだ。

好きなものを真っ直ぐに追いかけること、本作はそれを真っ直ぐに描いている。

そして最後のセリフに選んだ言葉がまたいいんだよね。

 

単行本化でエピソードの合間にコラムが追加されていて、各キャラクターの好きな映画が掘り下げられているが、それぞれのタイトルを選んだ理由が興味深い。 

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