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異例の金魚すくい漫画「すくってごらん」(大谷紀子)

漫画「すくってごらん」(大谷紀子)1巻(BE・LOVEコミックス)

「すくってごらん」は大谷紀子による漫画作品。 

BE・LOVEで2014年より連載を開始した。 

 

東京のKDS銀行本社から大和郡山支店に転勤でやってきた元エリート銀行マン・香芝誠。ささくれ立った心をむき出しにして歩いていた香芝が、束の間の清涼を求めて偶然足を踏み入れた先は金魚問屋だった。地元住民たちが楽しむ“金魚すくい”の光景を、最初は気にも留めずにいた香芝だったが……!? 小さな命をめぐる世界一優雅な奮闘を描く次世代コメディ!!

(あらすじ:『すくってごらん』|講談社コミックプラスより)

 

夏祭りの露店で金魚すくいをやってみたことのある人は多いでしょう。

かき氷やわたあめ、焼きそばと並んで定番ですね。

日本の夏の風物詩。

そんな非日常の一時が当たり前のようにある町、奈良県大和郡山市を舞台にした金魚すくいの物語。

江戸時代に武士の副業として始まった金魚の養殖から、現在では国内のシェアを二分するほど盛んであるようです。

 

主人公の香芝誠は銀行員で、東京の本社でも営業トップの成績でしたが、仕事のミスでこの大和郡山の支店に左遷されてきました。

引越し先のアパートは古くて狭く、挫折感を味わいますが、向かいの金魚屋の店主、王寺や“現代のかぐや姫”生駒吉乃との出会いで金魚すくいの世界に踏み込んでいきます。 

主人公の強み

香芝は金魚すくいに関しては素人です。

子供の頃にやったことがある程度で登場時は一匹もすくえません。

子供から老人までが自在にポイを操る中で自分が全く歯が立たないことに人一倍くやしがり、そのことに対して努力できるということ。

 

たかが金魚すくいではないんですね。

同僚との飲みの帰りも、回り道して町をもっと知って覚えておこうとする。

この主人公はこれまでもそうやって努力してきたんでしょうね。

そして一番の強みはこれ。 

「すくってごらん」(大谷紀子)1巻より、金魚を見分ける能力
(「すくってごらん」1巻より) 

 金魚の顔を見分けられるという才能です。

これをどう活かしていくのか。

掬うは救う

タイトルのすくってごらんは2つの意味を持ちます。

1つは金魚すくいの掬う。もう1つは救うです。

金魚すくいで使われる金魚は商品にはならない和金*1

ひよこの場合もそうですね。

弱っていたりしてそのままでは長生きできない個体が多い。

 

一度は脱落しても活躍するチャンスを与えられている。

エリートの道から外れた主人公は自分の姿と重ねます。

 

「立派じゃないか  なにかの役に立って  誰かを夢中にさせて  すくわれて…  小赤のように生きていくのも悪くない」

嫌々やってきたこの町で、新しい道を見つけていくのです。

あとがき

金魚すくいを題材にしたまんがはおそらく他にはありません。

マニアックですね。

夜店の金魚の扱われ方、その後の飼育の仕方など知るきっかけになりました。

生き物ですからね。連れて帰る場合はできるだけ長生きできるように環境を整えてあげましょう。

2020年秋、まさかの実写映画化が発表された。

 

 全3巻。

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