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「応天の門」(灰原薬)在原業平と菅原道真が都の謎に挑む

漫画「応天の門」(灰原薬)1巻(バンチコミックス)

「応天の門」は灰原薬(はいばら やく)による漫画作品。

月刊コミック@バンチ(現コミックバンチ)で2013年より連載を開始した。

平安京を舞台にした歴史ミステリー。

時は平安、藤原家が宮廷の権力を掌握せんと目論んでいたその頃、都で突如起きた女官の行方不明事件。「鬼の仕業」と心配する帝から命を受けた・在原業平は、ひとりの青年と出会う。その少年の名は――菅原道真。

(「応天の門 1巻 (バンチコミックス)」より) 

あらすじ

近頃、都でおきている失踪事件。

藤原親嗣の下女が相次いで行方知れずになっているという。

人々の間では、もっぱら鬼の仕業との噂であった。

検非違使の長である在原業平は事件の調査に乗り出すが、容疑者として浮かび上がってきたのは縁戚の紀長谷雄(きのはせお)であった。

彼は失踪した下女、小藤に懸想していた。

 

業平の知る長谷雄は、騒動を起こすような人物ではない。

捕物の場に居合わせた長谷雄の学友、菅原道真に協力を依頼し、事件の謎に挑む。

舞台は平安京

この時代、藤原良房が台頭し、権力の座を伴善男と争っていた。

清和天皇はまだ若く、良房は姪の高子を入内させようと画策し、善男は藤原家とは縁のない姫を立てて牽制しようと企む。

関係者の年齢から推測すると864年のこと。

 

在原業平は左近衛少将として検非違使を束ね都の警備にあたっていた。

当代随一の美男として、作中でも人妻との逢瀬から帰宅する途中、月明かりの中で書物を読んでいた菅原道真と出会うことになる。

道真はこの時18歳。

朱雀門前にあった大学寮に通う文章生(もんじょうしょう)として、また三男であることで、部屋にこもり書を読みあさる日々を送っていた。

漫画「応天の門」(灰原薬)1巻より、読書中の菅原道真
(3話「在原業平少将、門上に子鬼を見る事〈三〉より」)

ふたりはともだち?

意外な組み合わせだが、この二人は実際に交流があったらしい。

20歳の年齢差があるとはいえ、同じ時代に出世をし、共に百人一首にも選ばれるほどの歌人でもあるので、そう不思議ではないのかもしれない。

本作では、引きこもり気味の道真を、何かと理由をつけて引っ張りだすのが業平と長谷雄だ。

漫画「応天の門」(灰原薬)1巻より、在原業平と紀長谷雄
(4話「都を賑わす玉虫の姫の事〈一〉より」)

鬼の棲む世界

当時はまだ鬼の存在は認められていた。

もちろん現在の鬼のイメージとは違うものであるが、抗うことのできない力は悲しい響きをもつものが多い。

 

業平の作との説もある、伊勢物語の芥川の段にも鬼が登場する。

実際の事件にもとづく出来事で、本作にも関連がある。

思い続けた女を屋敷からようやく連れ出した男は、芥川の辺りで雨に振り込められ、かみなりとともに女を鬼に喰われてしまう。

白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消なましものを

男にとって、痛恨の出来事であったろう。

そして、どうすることもできなかった。

 

業平と道真が挑むのは、そんな魑魅魍魎の跋扈する世界だ。

“門より内は地獄”

ならばこの応天門より先は欲にまみれた者共の巣窟、鬼の本丸だ 

史実ではこの後、藤原氏と大伴氏の政争が激化し、応天門の変へとつながっていくが、この二人がどう活躍していくのか楽しみだ。

漫画「応天の門」(灰原薬)1巻より、応天門
(3話「在原業平少将、門上に子鬼を見る事〈三〉より」)

あとがき

Amazonのおすすめで最近知ったのだが、これを読んでいなかったとは。

設定も絵柄も好みだ。

バディものといえば、サンドラ・ブロックとメリッサ・マッカーシーの「デンジャラス・バディ」とかを思い浮かべるが、真面目過ぎて堅物な主人公と型破りな相棒のコンビは見てて楽しいのだ。

漫画を取り上げるのは久々だ。今後は月一くらいは書いていこうかな。

 

このそっけなさ。 

 

3巻になると表紙にも華やかさが出てくる。 

 

かつて、鬼は確かに存在していた。

史書や伝承、芸術などに残る鬼の姿を多角的に検証する。

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