「リトル・ダンサー」はスティーヴン・ダルドリー監督による2000年公開の映画。
1984年、サッチャー政権時代のイギリスの炭鉱の町でダンスに夢中になるビリー少年の物語。
あらすじ
イギリスの炭鉱の町ダラム(ダーラム)。
11歳のビリーは父と兄、祖母と暮らしていた。
父や兄は炭鉱労働者であったが、労働組合によるストで休職中。
母は前年に亡くなり、ビリーは認知症の祖母の世話をしながらボクシングの練習に通う。
ビリーも友人のマイケルも、あまりボクシングが好きではなかった。
ストの影響で、バレエの教室が同じフロアに移ってくることになるが、ビリーは次第に興味を惹かれていく。
予告編動画
Billy Elliot - trailer - YouTube
イギリスと炭鉱の町
イギリス、炭鉱の町、ストライキとくると、ジョン・フォード監督の「わが谷は緑なりき」を思い出さずにはいられない。
1941年に公開され、アカデミー作品賞と3度目の監督賞を獲得した。(5部門受賞)
時代は違うが、不況によるストへの突入と、そのリーダーになる兄、結果としてスト破りとなる父との対立、ボクシングを習う末っ子。
そして自分たちとは違う未来を望む。
かなり意識して作られているはずだ。
ちなみに脚本家が影響を明言しているのはケン・ローチ監督の「ケス」であった。
1984年、政府は財政難から赤字の炭鉱を閉鎖することを決定し、それを不服とする労働組合はストライキを決行。
彼らには厳しい生活が待っていた。
男がバレエなんて
この町では男たちは皆成長すると炭鉱で働くようになる。
父がそうであるように、力強く、頑固で、息子にもたくましく育つことを望んでいた。
そしてビリーがボクシングの練習を休んでバレエをやっていたことに激怒する。
男ならフットボールやボクシング、レスリングをやれという。
この父を納得させるのは容易ではなさそうだ。
バレエを教えるウィルキンソン夫人に才能を見出され、ダンサーになる夢を追うビリーと家族の葛藤が本作の主軸で、予告編でも見られる部分。
特に父の息子を思う愛情に泣ける。
父の反対の理由についてはこの記事が参考になる。本作のことにも触れられている。
母のピアノと音楽
ビリーがバレエにのめり込むのは、祖母と亡き母の影響がある。
祖母は若い頃はバレエダンサーであり、母はフレッド・アステアの大ファンだった。
本筋以外で気になるのは、ビリーが母の形見のピアノを音を探りながら弾くシーン。
この鍵盤には文字が書いてある。
はっきりとは見づらいんだけど、おそらくCとAだ。
これは、僕も小さい頃やった覚えがある。
マジックで書いた文字を見た時、母はさすがに驚いていたが、あえて消そうとはしなかったな。
弾きたいという気持ちを優先してくれたんだろうと今では思う。
ビリーを一貫して応援してくれるのは祖母。
認知症で度々同じことを言うんだけれど、その言葉はビリーを支えてくれる。
辿々しい音を鼻歌で後押ししてくれるように。
メロディは形にならない「My Favorite Things」のようで、ちょっと違う。
普段母のことを話さない父の思いが分かるのもピアノのおかげだ。
オープニングはビリーが兄のレコードをこっそりかけるところから。
曲はT-Rexの「Cosmic Dancer」。
これはアルバムの2曲めにあたる。
当時は曲の頭出しは手動でやるしかなかった。
曲間に少し広めの溝があって、そこを狙って針を落とす。
緊張と期待の瞬間。そして1回目は失敗する。
こういう部分がいいな。
T.Rex - Cosmic dancer - YouTube
あとがき
この映画はすごく好きな作品で、マイ・オールタイム・ベストを選ぶなら10位以内に入れると思う。
公開後、ミュージカル版も制作され高い評価を受けているようだ。
先日、2017年に日本での上演が決定したとのニュースがあった。
原題:Billy Elliot
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ジェイミー・ベル / ジュリー・ウォルターズ / ゲアリー・ルイス / ジェイミー・ドレイヴン / ジーン・ヘイウッド / スチュアート・ウェルズ / アダム・クーパー
ミュージカル版の方は動画配信でも観られる。
こちらも名作。