「応天の門」は灰原薬(はいばら やく)による漫画作品。
月刊コミック@バンチ(現コミックバンチ)で2013年より連載を開始した。
平安京を舞台に在原業平と菅原道真のコンビが、都で起こる事件に挑むミステリー第3巻。
道真には、7つ年上の兄、吉祥丸がいた。
前回はこちら。
道真の兄
記憶の底に眠っていた兄の姿。
床に臥せった兄に近付くことを許されなかったこと。
家中の者がみなその話に触れようとしないのはなぜなのか。
書庫で過去の記録を調べていた道真はある事実に突き当たる。
吉祥丸は道真の7つ上だった。
平凡だが優しい少年で、まだ幼い弟の才を喜びかわいがってくれた。
流行病での死とされたその原因は、藤原家が関わっているようだ。
折しも、帝(清和天皇)に呼び出された父の是善は、染殿の后(藤原明子)の生霊をめぐる問題に巻き込まれていた。
染殿・明子(あきらけいこ)は先帝(文徳天皇)の后であり、藤原良房の娘。
藤原氏台頭のきっかけになった人物であるが、現在は気の病で表に出ることがなくなっている。
業平は幽閉の可能性を疑うが、侍読として帝の教育係を担う是善は板挟みにあってしまう。
「藤原にはかかわるな」
欲望渦巻く伏魔殿で生き延びるための鉄則でもあり、やがて参内するであろう息子に父が伝えられること。
兄の死の真相を知った道真は失望する。
このまま得業生になったところで、何になるのか。
学んできたことが全て無駄になるのではないか。
耐えるしかなかった父の無念さと、まだ何者でもない自分の無力さに歯がゆい道真は、試験の前日に出奔する。
業平と出会った頃、 彼の「最後には正しい者が勝つと、本気で思っているんじゃないだろうな?」 との言葉にショックを受けていた道真だ。
その後、謎解きを通していくらか世間とも関わってきたが、これだけ身近なところで思い知らされたことは衝撃であっただろう。
”応天門より先は鬼の本丸” の意味が明らかになってきつつある。
やがて政争に巻き込まれていく道真にとって転換期となる巻でもあるようだ。
道真の家出は明石止まりだったが、この地で井戸枯れのため人柱にされそうになった幼子を救うことができた。
正しいだけではだめだということ。
「人を動かすことが出来るのは責任をとる覚悟がある者だけです。そしてその判断が正しくなくては人が死ぬ。」
自らの判断に他人の命がかかっている状況を、学んだことを生かして解決することを経験し、務めのために子供が犠牲になる理不尽を、何とか防ぐことができたこと。
今後の進む道に大きな意味を持つ出来事だろう。
もう何も知らなかった子供ではない。
道真を心配して迎えに来た業平。
絶妙のタイミングで現れるところはさすがだ。
道真の帰りを待つ一人として登場する新キャラはこの人。
許嫁である島田宣来子(しまだののぶきこ)、道真の師の一人、島田忠臣の娘である。
得業生の試験を放棄したことで、結婚が延期になりご立腹な様子。
聡明で、業平にも既視感を覚えさせる姫だ。
次巻からは、この似たもの夫婦のやりとりも楽しみになってくる。