午前3時の太陽

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喜劇王チャップリンを味わう映画10本を年代順に紹介する

チャップリン映画「キッド」ポスター

 

今年はリュミエール兄弟によって1895年に世界初の映画「工場の出口*1」が公開されてからちょうど120年。

その年に生まれたのが後に喜劇王と呼ばれるバスター・キートンです。

そして、キートンやハロルド・ロイドと共に三大喜劇王として知られるのがチャールズ・チャップリン(1989 - 1977)。

山高帽にサイズの合わない服とステッキ、独特の歩き方の放浪紳士(トランプ)スタイル。 俳優としてだけでなく、監督・脚本・作曲もこなした映画黎明期のスターでした。

 

僕の子供の頃は映画といえば日曜洋画劇場で淀川長治氏の解説と共に観ることが多かったので結構影響を受けました。

チャップリンの話をしだすと止まらなかったですよね。

そうとう好きだったんですね。

今回はチャップリンの作品の中から、中期から後期にかけての比較的まとまった長さの映画を10本紹介します。

何から観ればいいのか迷ったら参考にしてください。

この時代はサイレントからトーキーへの移行期、また上映時間の増加の時期を含むので、できれば公開順に観ることをおすすめします。

 

それではいってみましょう。

犬の生活(1918)

チャップリン映画「犬の生活」

タイトルは惨めな生活を意味する慣用句でもありますが、文字通り犬とチャップリンの生活でもあります。

ヒロインは初期作品の常連だったエドナ・パーヴァイアンス。

空き地をねぐらにする放浪紳士チャップリンは、職業安定所の帰りに野良犬のけんかに巻き込まれていた子犬を助けることに。

それから一緒に暮らし始めた子犬はスクラップスと名付けられます。

 

40分ほどの作品。現代の感覚だとかなり短く思えますが、この頃から少しずつ時間が延びていきます。

実兄のシドニー・チャップリン(二男も同名)との屋台での共演シーン、犬のしっぽによる太鼓の演奏、二人羽織などが見どころですね。

他の犬たちも名演技です。

この主役とも言える子犬が懐きすぎて、チャップリンのツアー中に食事を取らなくなるというかわいそうなエピソードもあったりします。

チャップリン入門におすすめの作品です。

 

Charlie Chaplin and his brother Sydney in a scene from A Dog's Life (1918) - YouTube

キッド(1921)

チャップリン映画「キッド」

朝の散歩中に路地に捨てられていた赤ん坊を拾ったチャップリン。

なりゆきで家に連れ帰ることになります。

そして数年後、やんちゃに育ったジョンと名付けられた子供は仕事の手伝いをできるまでに成長していました。

その仕事というのは窓ガラスの張替えです。

やることは決まってますね。

 

先日、子役による最高の演技トップ10というものが発表され、「ペーパー・ムーン」のテイタム・オニールが選出されたそうですが、本作のジャッキー・クーガンも負けてはいません。

チャップリンに引けをとらない演技を見せます。

これをきっかけに元祖天才子役と呼ばれ、当時最も有名な子役になりました。

そしてめちゃくちゃかわいい。

 

現在観ることのできるのは1971年に編集されたサウンド版です。

 


Charlie Chaplin - The Kid (Trailer) - YouTube

ゴルフ狂時代(1921)

チャップリン映画「ゴルフ狂時代」

チャップリンが一人二役に挑戦。別名「のらくら」。

汽車の荷物入れに忍び込んでゴルフに出掛ける放浪紳士と、酒好きで妻に別室を言い渡される本物の紳士が瓜二つという設定。

途中紳士の妻に出会ったチャップリンは一目惚れするのですが、紳士の妻は別人だということに気づかず、夫と勘違いしてしまいます。

 

倒れている男がボールを吐き出すシーンがうまいです。

そっくりさんが登場という設定は「チャップリンの替玉」という作品もあります。

そちらは鏡ネタとして、こちらはコスプレパーティとして。

 


CHARLIE CHAPLIN The Idle Class 1921

「給料日」(1922)

チャップリン映画「給料日」

給料日。夫の帰りを待つ妻。

うれしい響きなのですが、この奥さんはこわい。

建設現場で働くチャップリン、仕事が終わって給料を受け取り帰路につく。

その一部をへそくりにしようと画策するが、振り向くとそこには妻が立っていた。

 

これはチャップリンの映画で最初に観た作品だったと思います。

奥さんに給料を渡す場面のやりとり、逆再生による煉瓦の受け渡しのシーンは必見です。

 


Charlie Chaplin - Pay Day - Brick Scene - YouTube

黄金狂時代(1925)

チャップリン映画「黄金狂時代」

ゴールドラッシュ。

19世紀の中頃、メキシコから割譲された新天地カリフォルニアで砂金が発見され、一攫千金を夢見る人々は大挙して押し寄せました。

西部開拓史の最終段階、ジーンズの発明の歴史でもあります。

 

今回チャップリンも金の採掘を目指す一人。

目指すは アラスカの地。

いつもの放浪紳士スタイルで未知の雪山へ足を踏み入れます。

吹雪の中、飢えと寒さに苦しむチャップリンは自分の靴を調理しようと思い立ちます。

もちろん本物の靴ではないのですが、とてもおいしそうに見えてきます。

出演作としては最初の長編。

 


Charlie Chaplin - The Gold Rush (Trailer) - YouTube

サーカス(1928)

チャップリン映画「サーカス」

スリの現場に居合わせたせいで誤解され警官に追われるチャップリン。

逃げ込んだ先のサーカスの団長の娘に恋をしてしまい、そこで働くことになります。

 

チャップリンはパントマイムを基本にしていて、ジャッキー・チェンが手本としたキートンやロイドのような派手なアクションはあまり見せないイメージがありますが、身体能力は高かったようです。

それを味わえるのが本作。

 

道化師として雇われたチャップリンでしたが、ショーの目玉である綱渡りの団員が見当たらず、急遽登場させられます。

お猿たちがからだにまとわりつきながらという難易度の高さ。

 


Charlie Chaplin - The Circus (Trailer) - YouTube

街の灯(1931)

チャップリン映画「街の灯」

盲目の花売りの女性に一目惚れしてしまった放浪紳士チャップリン。

貧しさで家賃を払えず追い出されそうになった彼女を助けるために奔走します。

チャップリンの笑いはタイミングが命であるものが多いですが、その完璧主義からテイク数は尋常ではありません。

本作のヒロインとの出会いの場面。

そのシーンのためだけに一年以上の時間がかけられました。

 

資産家の援助を受けていたと思わされていた彼女が手術で目が見えるようになった時、花屋の店の前を通りかかったのはみすぼらしい姿をしたホームレスだった。

余韻の残るラスト。

 


Charlie Chaplin - City Lights (Trailer) - YouTube

モダン・タイムス(1936)

チャップリン映画「モダン・タイムス」

「機械社会の中で個人が人間性を見い出し幸福を求める物語。」

 

らしくない冒頭のシーン。

羊の群れのカット、地下鉄の階段を登る人びと、不安を煽る音楽。

最初に観たときは途中までで止めてしまった覚えがあります。

工場の場面がどうもだめで。

しかし、デパートでのローラースケートのシーン、初めての肉声をパントマイムとでたらめな言葉で表現した歌「ティティナ」のシーンは必見の神演技。

後半は名シーンの連続です。

らしくないと言えば、本作のヒロイン*2は超ワイルド。

 

トーキー*3が主流になっていく時代にあくまでサイレントにこだわったチャップリンの映画への思いが詰まっています。

放浪紳士とサイレント時代への決別と集大成。

そういう意味では他の作品を一通り観てからのほうが感慨深くなると思います。

テーマ曲の「スマイル」は何度もカバーされ有名になりました。

 

この前半の工場の部分はルネ・クレールの「自由を我等に」やフリッツ・ラングの「メトロポリス」のオマージュでもあります。

ちなみにルネ・クレールは1929年に自身初のトーキーによる作品*4を作っていますが、元々反対派であり、セリフに頼らないうまい見せ方をしています。

 


Charlie Chaplin - Modern Times (Trailer) - YouTube

独裁者(1940)

チャップリン映画「独裁者」

チャップリンの反戦映画。

1939年、ドイツがポーランドへ侵攻して第二次世界大戦が始まった直後に制作開始。

チャップリンは独裁者ヒンケルとユダヤ人の床屋の二役を演じます。

 

第一次世界大戦で、負傷した将校の命を救ったチャップリン。

後遺症で記憶を無くし、病院で20年間過ごします。

久し振りに帰った町は大きく変わっていて。

 

前作の「モダン・タイムス」で初めて肉声を聞かせたチャップリン。

どこにもない言語で歌い、セリフも会話としての成立を拒否しました。

どこの国の人が観ても言葉が分からなくても笑って泣ける、それが映画だという事を皮肉にもトーキーで示します。

そして今回初めて自分の言葉でメッセージを残します。

 

チャップリンがどうしても伝えたかったものは平和への願いであり希望でした。

最後の演説部分が有名だけど、そこまではやっぱりコメディ。

痛烈に皮肉ってもユーモアは忘れない。

チャップリンの映画で一番笑った作品でした。

 

この映画を観たヒットラーはチャップリンをドイツに招待しようとし、アメリカ政府は国外へ追放しようとしました。

 


The Great Dictator 1940 Official Trailer

ライムライト(1952)

チャップリン映画「ライムライト」

喜劇ではないチャップリン。

ハリウッドでの最後の作品となりました。

かつてイギリス一といわれた道化師のカルヴェロも歳をとり、仕事もなく酒浸りの日々。

ある日ガス自殺をしようとした若いダンサーのテリーを救い立ち直らせます。

「なぜ意味が必要だ? 人生は願望だ。意味じゃない。」

名言ですね。

順調に成功への道を歩きだしたテリーと対象的にカルヴェロはその名を忘れられていきます。

 

チャールズ・ロートンとヴィヴィアン・リーの「セント・マーティンの小径」を思い出すストーリー。

時代は1914年、舞台衣装は放浪紳士を思わせるもので、当時のチャップリンもいつかは訪れるだろう自分の姿と重ねていたのでしょうか。

カルヴェロの姿は同じく老いた劇場オーナーに私にもまだ望みがあるかもしれんと言わせ、助けられたテリーはカルヴェロの再起を応援します。

見所として、本作はバスター・キートンと初めて共演した作品であり、ライバルとも言えるネヴィル役は息子のシドニー・チャップリンが務めています。

 


Three Reasons: Limelight - YouTube

あとがき

チャップリンの映画デビューは1914年。

100年前なのに、今観てもやっぱり面白いですね。

初期の短編作品は短い分、数が多いのでいずれまとめてみたいと思います。

来年あたり日本でもパブリック・ドメイン化かな。

 

キッド以降の作品は現在Huluでもいくつか公開されているのでそちらで観るのがおすすめです。

それ以外は近くのレンタルビデオ店でDVDをさがしてみてください。

それでは。

 

これが現時点で最高の版のようです。

 

関連記事

 

参考リンク:

*1:工場の出口 - Wikipedia

*2:ポーレット・ゴダード - Wikipedia

*3:talking picture から出たもので、moving picture を movie と呼んだのにならったものである。トーキー - Wikipedia

*4:巴里の屋根の下 - Wikipedia