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「麦の穂をゆらす風」アイルランドの魂の歌

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「麦の穂をゆらす風」はケン・ローチ監督による2006年公開の映画。

1920年頃のアイルランドのある地方の兄弟を中心に、独立戦争から内戦までを描いている。

 

この作品に興味を持ったのは、タイトルが気になったからだった。

「The Wind That Shakes The Barley」

アイルランドの民謡で、日本ではあまり知られていないかもしれない。

The Wind That Shakes The Barley

Dolores Keane - The Wind That Shakes the Barley - YouTube 

The Wind That Shakes the Barley

The Wind That Shakes the Barley

  • Dolores Keane
  • ¥150

もう一昔前になるけれど、ケルトやアイルランドの音楽に興味をもった時期があって、その中でも一番気に入っていたのが、ドロレス・ケーン(Dolores Keane)のアルバム「Night Owl」に入っているこの曲だった。

  

当時は歌詞の意味とか気にしていなくて、哀愁を帯びたメロディが好きで聴いていた。

19世紀に作られたこの曲が現地の人々の間でどのように歌い継がれてきたのか、この映画で少しだけ知ることができる。

 

あらすじ

1920年、アイルランドの田舎町で育ったデミアンは、医師としてロンドンの大病院で働くことになり、間もなく旅立とうとしていた。

イギリス領であったアイルランドでは、第一次世界大戦の際に凍結されていた独立の動きが再び起こり始める。

蜂起には反対であったデミアンも、恋人の弟を殺され、イギリス兵の理不尽な暴力を目の当たりにして、義勇軍(IRA)への参加を決意することとなった。

 

The Wind That Shakes The Barley - Official Film Trailer - YouTube

伝統的スポーツ、「ハーリング」

 

冒頭で、アイルランドの伝統的スポーツ、ハーリング*1の様子が描かれている。

彼らには純粋な娯楽の一つであったが、イギリスの武装警察はそれらも集会として締め付け、弾圧の対象となった。

その中で、英語名の名乗りを拒否した少年が拷問され殺された。

自分にはアイルランド人としての名前があると主張しただけだった。

 

アイルランドの神話における紀元前14世紀頃のモイトゥラの戦いで、トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)がアイルランドへの移民(フィル・ボルグ)をハーリングの試合で破り、さらに戦闘でも破ったとする記述が見られる。また、このほかにもアイルランドにおける数々の古い話でハーリングについて言及がなされており、時代とともにその人気も高まってきた。 (Wikipediaより)

 

この記述によると、侵略者を打ち破る象徴としての意味もあることが分かる。

作中でもハーリングのラケットは銃に見立てられ、やがて本物の銃に置き換わる。

アイルランド自由国成立から内戦へ

相手がイギリス兵のうちはまだよかったが、独立と戦争の大義名分の前では同国人も敵になりうる。

イギリス軍に迎合した地主、家族の安全のために仲間を売った幼なじみ。

 

「解剖学を5年も学んだ。なのに今は人を殺す。

クリスは弟みたいなもんだ。それだけの価値のある戦いかな。」

 

やがて講和して、アイルランド自由国が成立するが、その条件はイギリスの自治領としてのとしての独立だった。

「そんな事のために仲間たちは死んでいったんじゃない。」

「これは完全な独立へ向けた大きな一歩だ。」

意見の対立から内戦へ突入し、かつての仲間同士で争わなければならなくなった。

自由国の兵士となった兄テディとデミアンも敵味方にわかれる。

 

徹底して悪人として描かれるイギリス人と違って、本来目的が同じはずの人々が戦わねばならない。

このあたりの事情は複雑で、詳しく知りたい人は文献を探してみて欲しい。

映画作品なら、独立戦争の指導者を描いた「マイケル・コリンズ」がある。

IRAが登場する作品はハリソン・フォードとブラッド・ピットが主演した「デビル」や本作主演のキリアン・マーフィーの「プルートで朝食を」が思い出されるが、本作はより踏み込んだ内容で、アイルランドの歴史に興味を持つきっかけになるのではないかと思う。

あとがき

最後まで重い内容だけど、一度は観ておくといいと思う。

あと、本編とは関係ないが、アイルランドの音楽をいくつか紹介する。

 

Bill Evans - Danny boy - YouTube

アイルランドの民謡で最も有名なものは「Danny Boy(ロンドンデリーの歌)」かな?

これはビル・エヴァンス(Bill Evans)のピアノソロバージョン。 

 

March Up Fifth - Eileen Ivers - YouTube

こちらはフィドル(ヴァイオリン)。

動画ではわかりにくいが、青いフィドルが特徴のアイリーン・アイヴァース(Eileen Ivers)。

クラシックやジャズのヴァイオリニストと共演したり、エフェクターも使いこなす多彩なフィドラーだ。

 

Trail of Tears- Clannad - YouTube

アイルランドの長寿バンド、クラナド(Clannad)。

名前の由来は、当初のバンド名でもあるアイルランド語の「An Clann as Dobhair」 を縮めたもので、"入江から来た家族" を意味する。

その名の通りファミリーバンドで、父親の経営するパブで演奏をしたのが始まりらしい。

高校生の時にジャケットが気になって買ったものだけど、今でも聴いている。

 

原題:The Wind That Shakes The Barley

監督:ケン・ローチ

出演:キリアン・マーフィー / ボードリック・ディレーニー / リアム・カニンガム / オーラ・フィッツジェラルド 

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