「花とアリス殺人事件」は2015年公開の、岩井俊二監督による初の長編アニメ映画。
2004年の実写映画「花とアリス」の前日譚である。
あらすじ
史上最強の転校生、アリス。史上最強のひきこもり、花。
二人が出逢ったとき、世界で一番小さな殺人事件が起こった。
有栖川徹子(旧姓黒柳)は、両親の離婚で母と神奈川の田舎に引っ越してきた。
編入先は石ノ森学園中学校の三年二組。
教室の中央の机は空席で、そこに座った徹子をクラスメイトたちは避け始めるが、前年に起きた出来事と関係があるらしかった。
殺されたというユダとその四人の妻、床に描かれた魔法陣、同級生陸奥睦美を中心に行われる謎の儀式。
徹子は唯一の生き証人で現在は引きこもっているという人物に会うため、「花屋敷」と呼ばれる向かいの家に乗り込む。
予告編動画
映画『花とアリス殺人事件』予告編 - YouTube
実写のアニメ化
本作はロトスコープ*1を採用している。
実写で撮った映像をトレースしてアニメーションにする。
実写をアニメに取り入れること自体は古くから使われていて、1937年公開の初の長編アニメ映画ディズニーの「白雪姫」などが有名。
短編作品も含めると100年ほど前まで遡るらしい。
本作アニメ化の理由は、前作から10年を過ぎたこともあり、出演者が大人になったからという現実的なもののようだが、監督は前作直後からアニメ化を考えていたようだ。
『花とアリス』を作った直後に今回のプランがあって、そのときには完全にアニメにしようと思っていました。
岩井俊二監督インタビュー『自分の世界観が出ている 悪友少女ふたりの関係性』 | ORICON STYLE
他のレビューをいくつか見てみると、動きがなめらかとかリアルと書かれているものが多いが、実際は初見だと違和感がある。
実写ほどなめらかではないし、アニメとしては動きに無駄が多い。
だがこれはしばらく観ていると慣れてきて気にならなくなってくる。
通常のアニメでは省略される部分も描かれていてそういう点ではリアルだ。
あと、人物はシンプルな絵柄なんだけど、背景はとても細かい。
美術監督の滝口比呂志氏は「言の葉の庭」も担当しているそうで、水彩のような風景と光がとてもきれいだった。
前作を観ていなくても楽しめる
僕は前作の実写版を全部観てはいない。
二回ほど途中で断念したのだが、それでも今作は楽しめた。
声と動きを別々に撮っていることでより精度が高くなっているのか、あるいは単純に監督や役者が上手くなっているのか。
近々実写版の「花とアリス」も観てみたいと思った。
前作を知っている方がより楽しめる描写もあるようだが、逆の順番でもいいんじゃないかな。
改めて観直すことでニヤニヤできる部分がありそう。
お気に入りのシーンは陸奥睦美との会話と、タクシーで追いかけたおじさんとのやりとり。
「私は陸奥睦美。魔界から蘇ってきた来た女。出席番号、13日の金曜日。」
この二人のやりとりは楽しそう。
ちょっと「ピーピングライフ」っぽい。
蒼井優の「いやあ、どうだろうか…」のセリフがいいな。
この人の声は好きだ。
あとがき
鶴岡八幡宮のシーンで、小津監督の「晩春」を思い出した。
構図は全然似てないんだけどね。
笠智衆と杉村春子の「がま口拾っちゃった。こりゃ運がいいわよ」「おい、届けないのか」のやりとり。
これと「花とアリス」は hulu のリストに入っているので観てみてほしい。
担任の先生の名前は公式だと萩野里美となっているが、紹介される時のセリフは「おぎの」と呼ばれている。どっちが正しいんだろうか。
監督:岩井俊二
出演:蒼井優(有栖川徹子)
鈴木杏(荒井花)
相田翔子(母:有栖川加代)
木村多江(バレエの先生:堤ユキ)
黒木華(担任:萩野里美)
鈴木蘭々(同級生:陸奥睦美)
勝地涼(湯田光太郎)
これはコミカライズ。
サントラは監督自身の音楽ユニット「ヘクとパスカル」 が担当。