「こうふく画報」は長田佳奈(おさだ かな)による漫画作品。
とある時代のとある町に暮らす人々のささやかな生活を切り取った掌編のオムニバスである。
1話8ページで番外編も含め全13話。
少し昔、大正時代の日本。
特別ではない「いつものごはんやおやつ」とともに
・神経質すぎる和菓子職人に振り回されるお手伝いの少女。
・風変わりな仮面を被る古書店の主人と、クラスになじめない転校生の少女。
・顔も知らない他人同士だった男女の新婚生活。
などなど、市井の人々の幸せな日常を描いたノスタルジックコミック!(「こうふく画報 (主任がゆく!スペシャル)」より)
ストーリーは読み切りだが、登場人物が近所同士であったり、ゆるく繋がっている。
おかしなふたり
和菓子屋で働くかの子は、店の主人の有平(あるへい)に手を焼いている。
彼は神経質なほどの几帳面な性格で、整然としていないものが気になって仕方がないようだ。
問題なのはそれが仕事に支障を来たしていること。
店に並ぶ商品はいつも品薄で、時間通りに開店すると常連に珍しがられる有り様だ。
味は美味しいと評判でも経営は火の車で、店の将来が心配になってくる。
しっかりしたおかみさんでもいるといいのだが。
かの子は無表情なキャラである。
言葉も素っ気ない。
それらがこのひとコマに集約されている。
表情が変わらないからこそ伝わってくるものがある。
悩みの箱
本作で無表情なキャラはもう一人登場する。
彼の名は茂。
料理教室に通う妻が弁当作りを張り切りだした。
それまで作っていたお手伝いの喜多に代わり、毎日彼女が用意する。
しかし茂と息子の進にとっては悩みの種だった。
彼の無表情は妻を傷つけないように配慮されたものなのかもしれないし、妻は夫の微妙な変化を見抜く目を持っている。
平和的に解決する方法とは。
彼のセリフ「料理をするために費やされる時間は作る人の寿命の一部だ」の部分がいい。
思えば思わるる
雪乃と清春は結婚して半月ほどになる。
お見合いと一回のデートで決めたため、お互いに知らないことも多い。
夫は物静かな性格のようで、それがまた時間のかかる原因にもなっているかもしれない。
ある日、夫がおみやげにコロッケを買ってきた。
彼女が家事をしながら口ずさむコロッケの唄を聞き、もしかしたら好物なのではないかと思ったという。
このコロッケの唄は実在するもので、大正時代に喜劇「ドッチャダンネ」及び歌劇「カフェーの夜」の劇中歌であったもの。
おそらくは彼女にとってたった一度のデートの思い出の曲。
彼のことを考えている時に無意識に出ているものかもしれない。
当時のコロッケは高級なおかずなので、彼女に食べさせたくて奮発したのだろう。
ちょっとした勘違いではあるが、お互いに相手を思っているからこそのエピソードである。
そして "これからゆっくり「夫婦」になる" の言葉で締める。
あとがき
こういった、短いけれどあたたかくなる話が詰まっている。
各話に後日談的なおまけページがついていてそれがまたいい。
もっと読みたいが単巻なのが残念。
作者のデビュー作「2KZ」はkindle Unlimitedでも配信されている。
こちらもおすすめだが、本作は化けたなという印象。
今後は作者買いで。