「蜜蜂と遠雷」は恩田陸(原作)、皇なつき(作画)による漫画作品。
comicブーストで2019年より連載を開始した。
原作は直木賞受賞作で2019年10月から映画も公開されている。
3年毎に開催される芳ヶ江ピアノコンクール。名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ・アナトール。音大出身だが、今は楽器店勤務のサラリーマンで妻子もおりコンクール年齢制限ギリギリの高島明石。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら母の突然の死去以来、長らくピアノを弾けなかった栄伝亜夜。そして、養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵。彼らを始めとした数多の天才たちの戦い“第1次予選"が始まるーー。
(「蜜蜂と遠雷 (1) (幻冬舎コミックス)」より)
コンクールに挑む若者たちの群像劇
今年で6回目を数える芳ヶ江国際ピアノコンクールの開催が近付いている。
歴史はまだ浅いが、優勝者が後に活躍することが続き、注目を集めるようになった。
本作は、そこに参加する4人のコンテスタントたちの戦いを描く群像劇である。
マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは幼い頃に日本で暮していたことがあり、そこでピアノと出会った。
近所に住む女の子の通うピアノ教室に飛び入りさせてもらったことがきっかけで、その時の約束通り演奏を続けている。
別れ際に貰った楽譜入れのトートバッグを、今もお守りにしているほど大切な思い出らしい。
あの女の子は今どうしているだろうか。
優勝候補として評判の活躍と、幼馴染みとの再会のエピソードが描かれていくのに期待したい。
彼は他の全員の演奏を聴くつもりでいるくらいコンクールを楽しんでいて、それは音楽に対して演奏者に対して敬意を持って接しているということでもあろうし、とてもリラックスできているということでもあるだろう。
かつて自分を見出してくれた人たちの影響があったりするのかもしれない。
そんな彼の紡ぎ出す音はどのようなものだろうか。
高島明石は、かつて嘱望されていた演奏者だったが音大卒業後は楽器店へ就職し、妻子と仲良く暮らしている。
ピアノは今でも続けていて、久々のコンクール出場をテレビのドキュメンタリーで密着取材されることにもなった。
ごく普通のサラリーマンで家庭での優しい顔を持つ彼は、そのエゴのなさが演奏者としてのコンプレックスでもあるようだ。
ソリストのように強烈な個性や自我が自分にはないこと。
だが普通の所にいる生活者としての音楽の価値を最後に確かめたいとも思っている。
4人の中では一番熱いものを秘めている人物だろう。
栄伝亜夜は幼少より神童と呼ばれ、内外のジュニアコンクールを制覇した天才少女だった。
師でもあった母を亡くしたショックでピアノを弾けなくなり、直後のコンサートで穴を開けて以来、演奏活動を離れ普通の学生として過ごしてきた。
今回は自分を大学に推薦してくれた学長への恩返しのつもりでの参加だったのだが…
ある日、大学の練習室で聴いたことのない演奏をするピアニストに出会うのである。
名前もわからない彼の演奏に衝撃を受けた彼女の音に変化は見られるのか。
1巻では物語序盤で、コンクール開始前のプロローグといったところ。
原作の連載終了時点では勝敗の結果は決まっていなかったらしく、それぞれの出演者たちのストーリーと出会いによる変化が中心になってくるのだろう。
皇なつきの綺麗な作画でそれをじっくり読めるはうれしい。
本命のマサル・カルロスがスター性を発揮するのか、それともダークホースの登場に評価が割れるのか。
個人的にはマーくんとアーちゃんの再会シーンがとても楽しみなのだ。
2019年10月4日より実写映画が公開、本編のその後を読めるスピンオフ短編集「祝祭と予感」(幻冬舎)も同日に発売されている。