「メルシィ!人生」はフランシス・ヴェベール監督が「奇人たちの晩餐会」に続いて発表した2001年公開のコメディ映画。
パッケージデザインの残念な感じと違って中身はいい。
あらすじ
フランソワ・ピニョンは真面目だけが取り柄の会社員。
妻には離婚され息子には避けられ、勤続20年の会社では居場所がない。
ある日偶然に自分のクビの話を聞いてしまう。
人生に失望した時、越してきたばかりの隣人に提案されたのはゲイである偽りのカムアウトすることだった。
予告編動画
『メルシィ!人生 』 - YouTube
平凡な男がリストラの標的に
ピニョンは20年間真面目に働いてきたが、よくも悪くも目立たない平凡で地味な男だった。
2年前に離婚して、妻が引き取った息子は寄り付かなくなっている。
社内のスポーツクラブでラグビーを指導するマッチョな人事部長とは反りが合わず、自分が間もなくクビになるという話をたまたまトイレで耳にしてしまうのだ。
隣人との出会い
人生の意味を見失ったピニョンがベランダから乗り出そうとした時、現れたのは隣に引っ越してきたばかりの老人だった。
”ゲイであることをカムアウトする”
隣人の提案は突飛なものに思われたが、放っておいてもクビになる身だ。
やってみる価値はある。
演技などできそうにないと言うピニョンに対して隣人は答えた。
「君は変わらなくていい。周りの目が変わるんだ。」
状況打開のために自分自身が変わるのではなく、周りの見方を変えることで関係性に一石を投じようとする。
これはピニョンの会社の主力商品がコンドームであり、同性愛者団体を敵に回すことをおそれる会社側の思惑を逆手に取ったものだ。
ささいなきっかけが人生を変えるかもしれない
かくして、今度は差別的な発言が目立っていた人事部長のほうが窮地に立たされる。
同僚たちの態度もしだいに変わってきて、普段と変わらないピニョンとの落差を皮肉たっぷりに描いている。
ピニョン役のダニエル・オートゥイユのさえない中年男役と、マッチョな人事部長役のジェラール・ドパルデューがピニョンとの関係を良好なものにしようとするあまり、恋する乙女のようになっていくさまも見もの。
あとがき
この手のちょっとブラックなコメディを撮らせるとフランシス・ヴェベール監督はうまい。
「奇人たちの晩餐会」も、バカを笑い者にしていた悪趣味な経営者たちが逆に痛い目にあう楽しい映画だった。
邦題とジャケットは手に取りにくいとは思うのだけど、面白さは保証できる。
新装版はこんなんだけど。↓
さえない見た目でも、中身に目を向ければいいところが見えてくるかもしれない。
これも皮肉なのかな。
「なぜ意味が必要だ? 人生は願望だ、意味じゃない。」
(チャップリン「ライムライト」より)
原題:Le Placard
監督:フランシス・ヴェベール
出演:ダニエル・オートゥイユ / ジェラール・ドパルデュー / ティエリー・レルミット / ミシェル・ラロック