「ル・アーヴルの靴みがき」はフィンランドのアキ・カウリスマキ監督による2011年公開の映画。
概要・あらすじ
「わずかな望みもない?」
「奇跡が起こるかも」
「近所じゃ起きてないわ」
密入国の少年と、貧しい人々の温かな善意と希望。フランスの移民問題に触れた寓話的な作品。
登場人物の動きの少なさ、セリフの少なさ、顔の表情のなさ、余分なものが極力削ぎ落とされた独特な画作り。
フランスの港町ル・アーヴル、靴みがきをして生計を立てているマルセルは貧しいながらも妻アルレッティ、愛犬ライカと慎ましい生活を送っていた。
ある日の午後、昼食を取ろうとして海辺に向かうと、アフリカから密入国してきていた少年イドリッサと出会う。
警察に追われている少年は、母に会うためイギリスのロンドンを目指す途中だった。
原題 Le Havre
監督 アキ・カウリスマキ
出演 アンドレ・ウィルム / カティ・オウティネン / ジャン=ピエール・ダルッサン / ブロンダン・ミゲル / イヴリーヌ・ディディ / ジャン=ピエール・レオ
ル・アーヴルの町とマルセル・マルクス
ル・アーヴルはノルマンディー地方の、パリにほど近いフランス第二の港湾都市。
海を挟んで対岸はイギリス。
マルセルはかつてはパリで売れない作家でしたが*1、現在はこのル・アーヴルに移り住んで靴みがきをしています。
「まともな職もあるが、靴磨きと羊飼いこそ人々に近いんだ。そして主の山上の垂訓に従うものは我々だけだ。」
イドリッサに話すマルセルのセリフですが、これはマタイ伝*2にある幸福の説教*3と呼ばれるもので、”幸福なるかな”で始まる言葉が8回続きます。
この作品は無垢なる者の間に起こる奇跡を描いていて、重要なセリフとなっています。
パリ時代からのマルセルの心境の変化、この無欲さは妻アルレッティの存在によるものでしょうか。
貧しいのは相変わらずですが、彼なりに幸せを手に入れたのだとじんわりきます。
その門は無垢なる者に開かれている
アルレッティは体調を崩し、入院を余儀なくされますが、そこで余命宣告を受けます。
これが概要冒頭の医師とのやりとりに繋がるのです。
「わずかな望みもない?」「奇跡が起こるかも」「近所じゃ起きてないわ」
皮肉な言葉ですね。
アルレッティの入院と入れ替わりでマルセルの家に匿われたイドリッサを近所の人々は協力して助けます。
代金を払えないマルセルがツケで商品を持っていくことを苦々しく思っていたパン屋や八百屋の店主までが。
また、少年を追う立場のモネ警視までもが言うのです。
「無垢なる人の苦悩には耐えられない」
アルレッティを見舞うパン屋のおかみさんとバーの女主人、この場面で本を読んで聞かせますが、フランツ・カフカの短編集から「観察〜街道の子供たち〜」でした。
前日譚ラヴィ・ド・ボエームを観ているとグッとくる演出。
実はここで読まれていない部分に気になる言葉が出てきます。
興味がある方は読んでみることをおすすめします。
マルセルも元作家らしく、会話の中にさらっと言葉を引用していたりします。
あとがき
なかなかシュールな作品でしたね。
でも見終わってほっこりできますよ。
個人的に印象に残ったのはモネ警視役のジャン=ピエール・ダルッサン。
アル中駄目おやじ*4や田舎の庭師*5としてのイメージが強かったのでこんな渋い役で出てくるとは思いませんでした(笑)
カウリスマキ監督は某アパレルブランドのCMが作風を真似て作られていると一時期話題?になりました。
こういうの好きなんですよ。
ではまた。